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条理ある疑いの彼方に

監督 フリッツ・ラング 80分 1956年
goo映画: Movie × Travel — 旅のような映画 映画のような旅
先週土曜日のアテネ・フランセ文化センター「アメリカ時代のフリッツ・ラング」に鑑賞。この日の上映作品、全部見るつもりだったが、寝坊ぐうたら怠惰のおかけで、これ1本のみ。だが、これが思いもよらぬ傑作だった。
原題は「Beyond a Reasonable Doubt」。ほぼ直訳だが、渋いタイトルだ。そしてきちんと「彼方」を演出しているところがまたいい。
冒頭はタイトルロールとともに、無言の死刑執行シーン(電気椅子)が描かれる。ゆったりとしながらも緊張感は備わっていて、死刑制度と同時にスクリーンから目を背けさせない効果がある。この映画の課題が「死刑」ですよ、という宣言にもなっている。
主な登場人物は新進作家のトム・ギャレット、新聞社社長のスペンサー、スペンサーの娘でトム・ギャレットの恋人のスーザン、そして、知事の座を狙い、冒頭の受刑者を状況書庫だけで死刑に持ち込んだ検事のトンプソン。
物語は、冒頭の死刑シーンから、死刑反対派のスペンサーとトム・ギャレットが、死刑制度の問題性を描くために、共謀してでっち上げの死刑囚を仕立てあげ、真実を告げるという話。先日あった踊り子パティ・グレイの殺人事件を利用して、嘘の被疑者としてトム・ギャレット自らが行うことになっている。
話はおおまかに二部構成になっている。前半はトム・ギャレットを偽の犯人に仕立て上げるための嘘の証拠作り。踊り子と懇意になり、殺人事件現場に遺留品を残し、車に証拠をつけるなど、地味な展開が続くが、真実を用意しておくために証拠写真をとっておくなど抜かりのない手筈を整える様子がテンポの良さで飽きさせない。
後半は、ある事件を契機にそれまでの嘘の証拠の真実を失ってしまうことから始まる。この時点でトム・ギャレットは留置されていて、それを聞くや弁護士に真実を打ち明けて、弁護士、スーザンの奮闘が始まる。そして、トンプソンを検事とした裁判の場面。
この間終始、刑事の捜査が挿入されてゆく。トム・ギャレット、検事、刑事たちの三者三様の行動が、よく整理されており、誰もが地道であるが、頭の悪くない行動をする辺りが映画としてバカにならないので安心できる。
特に後半の展開は前半との緩急のせいか、急展開を見せる。証拠を失ったトム・ギャレットが自暴自棄になりつつ、一つの真理が発見されては、覆されると言った繰り返しで、息をつかせない。そして、一旦恩赦を受けることになったトム・ギャレットの真実。それがスーザンの気づきで発覚する辺りは、巧い。というか、それまでさっぱり気付かなかった。真犯人が見つからない理由も、彼がこの謀略にのった理由などが、たった一言ワンシーンで凝縮されており、素晴らしい。そして情緒に流されることもない。スーザンは迷いの末の決断を行うが、迷いの表情とラストの省略、表情を垣間見えない無言の告白。これは冒頭の死刑シーンを丁寧に見せたことで、嫌な余韻を残すものとなった。
演出が丁寧であり、かつ部屋での構図の工夫、粋なセリフと50年代の良いハリウッド映画の1本(フリッツ・ラングだから当たり前か)である。
余談:Twitterで教えてもらったのだが、2009年にピーター・ハイアムズがリメイクしているとのこと。現時点では日本未公開の模様。