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TAP(2008年43冊目)

TAP (奇想コレクション)

TAP (奇想コレクション)

イーガンは「宇宙消失」を読んで、それから「祈りの海」「しあわせの理由」を途中まで読んで放り投げ、*1順列都市」は積読状態で、その他の邦訳は未購入という、2008年現在SFを読む人間としては、ダメな状態。でこの度、奇想コレクションで配本されるというわけで購入、読了したわけである。最初イーガンがこの業書で配本されると知ったときには、ちょっと驚いたのだが、セレクションとしては、結構嵌っていたというのが第一印象。ハードSF的要素は薄味の作品群。イーガンの著書はテクノロジーアイデンティティの関係性がよく問題視されるが、その轍を踏まない作品も並ぶ本書を読み、さらにサイエンス色の薄いホラー風味の小説も書いてたんだと知って、滅法イーガンの印象が良くなる(SF好きなんだけど、ハードSF読みではないのだ、と言い訳)。
気に入った作品についていくつか寸評を述べると、一番お気に入りは、「森の奥」。ハードボイルド的な雰囲気を持ちながら、インプラントというガジェットを使って、アイデンティティに対する展開を、心理描写よりもむしろ禅問答的な、殺し屋とターゲットの会話で成立させているところが良かった。うじうじ悩んでいるよりも、このようにウィットに富んだ会話劇はさながら、舞台もさることながらギャング小説として読めて良かった。表題作「TAP」は探偵小説のプロットで、謎の死を遂げた詩人の事件の真相を探る話、普通小説としても十分に成立していると思う。ただ、本書では一番ハードSF度が高く脳科学とかの知識がふんだんに盛り込まれているので従来のファンでも楽しめるだろう。主人公の探偵とその息子のやりとりがなかなか楽しいし、そこから一本の細い糸を紡ぎだすような試みもあるところが、読ませる。おそらく最後に出てくる少女との対比的描写としての側面もあるのだろう。「自警団」は正体不明の生物(?)というかイドの怪物のような主人公が語り手となるモダンホラー。SF度は皆無に等しいのだが、これが意外に拾いもの、アイデアでなく文章で読ませることができるんだとちょっと感心。ダン・シモンズのホラー風味というかゴシック感が漂っていた。「視覚」は、人間の身体感覚についての小説だが、自分としてはコメディとして読めた。何というか主人公は悩んでいるのだが、周りがそれを受け入れてくれないくだりは、ドタバタ喜劇の様相を呈していた。で、あと「要塞」。締まりのない終わり方という印象なのだが、作者個人が一番出ているような気がするのは誤解か否か。
偉そうなことを言えば、イーガンを見直したというのが全体的な感想。とりあえず持ってる積読と「ルミナス」が収録されている「ひとりっ子」は読みたいと思う。何とか、年内目標の一つ「奇想コレクション既刊に追いつく」が達成できたのは僥倖。帯によると次回配本はフリッツ・ライバー。来年の夏らしいので、余裕があるから、「未来の文学」に来年前半はシフトしておきたい。

*1:別につまらなかった訳ではない。短編集は適当にパラパラ読む、という読み方をするときに選んだ本がそれらだったというだけの理由