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麗しのオルタンス(2009年19冊目)

麗しのオルタンス (創元推理文庫)

麗しのオルタンス (創元推理文庫)

傑作なのか?フランス流スノビズム全開莫迦ミス。とゆーかミステリは瑣末なもので、小説全体を埋め尽くす莫迦莫迦しさが醍醐味。ミステリはミステリで一応決着はつくのであるが、本書にあるのは実に芳醇なエスプリに満ちた恋愛の群像劇なのであるのだ。主人公オルタンスはもちろん(ミステリには当然登場すべき)謎の青年と恋におち、愛すべき猫・アレクサンドル・ウラディミロビッチ(決して略してはいけない)も当然猫に恋をする。それらと本作で解決すべき「金物屋の恐怖」事件が微妙に交わって、それを楽しめば良い。といえば、普通のミステリなのだが、今作は紛れもなくアンチ・ミステリであり、メタ・ミステリである。語り手の<私>は二人おり、一人は作中の登場人物、ならびに全編をまとめている著者ジャック・ルーボーである。著者の来歴は数学者で詩人であのウリポのメンバであったということからして、まともな小説じゃないなと予感されるが、予測を上回る饒舌さで読者を煙に巻く点に関して素晴らしく知性を発揮しているのだが、そのベクトルはあくまで茶化す方向に向かっており、本文に入ってくる著者の登場人物に対するコメント、著者注(訳者注に非ず)、そして幕間と称してそこまでのまとめをしているようでいて、「この件につきましては第何章と第何章で明らかにしますよ」という非常に回りくどいのだがそれが楽しい要因の一つ。それでいて登場人物たちの奇妙な行動、おかしな台詞回し、それでいてオルタンスが謎の青年と関係をもつときのくだりでのお尻にまつわる感動的な台詞は助平というには共感を覚えてしまい、もう何が何だかわかんなくなってゆく間に話がトントン進んで、著者のせいで前章を読み返す破目になり、と、とにかく著者の隅々まで行き届いたインテリ莫迦小説として白眉の傑作。
訳者あとがきによると、本作は「オルタンス三部作」の1作目ということなので、至急東京創元社は版権を取って(もうとってる?)、出版すべき。